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Multi 4ショット

ハッセルブラッド社のマルチショット機能は、かつてのデンマークのメーカーimacon ixpreesのシステムを引き継いでいます。imacon ixpreesはマルチショットに関しては老舗であり、6ショットに関しては最初にこのシステムを開発したメーカーです。マルチショットの利点は、何と言っても階調表現がなめらかになること。そしてモアレ・偽色が起きにくい真性の1ピクセルを取得できることです。この手法によって得られた画像は、通常のワンショットのそれと比較して格段に端正で精細な情報を持つことが可能で、2倍近い解像感を持ちます。

当社のメインカメラ「H4DII200MS」は通常は5000万画素のワンショット機として稼働しますが、被写体が静止物であればさらに高精細な画像を得る2種類のモードを選択できます。

通常のデジタルカメラが採用する1ショットとは

通常のデジタルカメラの仕組みがこちら。ベイヤー配列という仕組みで色情報を得ています。

001.png本来のイメージセンサーは「明るいか暗いか」しか情報を取れません。そこでRGBの3色のフィルターをイメージセンサーの前に配置し、3原色の情報を取り込みます。ただ、3個では区切りが悪いため、もう一個Gを追加してRGBGという配列のカラーフィルターをイメージセンサーの上にセットします。これでカラーにするために必要な色情報を記録するのです。この配列をベイヤー配列と呼び、一般的なデジタルカメラの多くがこの方式を採用しています。









002.png輝度情報は一番明るく、他のチャンネルに対して2倍の面積を持ち、市松模様に展開しているグリーンチャンネルが受け持ちます。解像感のほとんどはこのグリーンチャンネルが受け持っていると言っても過言ではありません。そのため一般的なデジタルカメラの実解像度は、表示されている解像度の1/2程度と言われています。











003.png赤の情報はグリーンに比較して1/2の量です。また、フィルターが濃いため受ける光の量が減り、輝度情報としてはあまり期待できません。基本的に赤い情報がどこにどの程度分布しているのかを判断するために使用されます。













004.pngブルーチャンネルは、その数はレッドチャンネルと同様ですが、さらにフィルターが濃いため暗部の情報が弱くなります。ほとんど解像感には寄与しないと言ってもいいでしょう。ブルーの情報分布を得るために使用されます。

 

 

 

 

 

 

  

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この状態ではRGBがばらばらに存在しているだけです。そこでGチャンネルのRとBの情報は、隣接したピクセル、8pixelほど離れたピクセルなどを参照し、「類推・演算」を行って得ていきます。その多くは周囲8ピクセルの情報から「本来ならこの色彩だったはず」という類推を行うわけです。

007.psd同様にRやGチャンネルにおけるGの情報は、上下左右から得るわけです。ここにおいてももともと数の多いGチャンネルの精度が最も高いということが分かるでしょう。もっともこの時の情報は、多少は輝度情報にも置き換わるため、現実には表示解像度に幾分かの寄与があります。

つまり、ワンショット機はその表示された画素数分の精細な情報を持ってはいないのです。演算部分の精度の向上などもあり、表示画素数の75パーセント前後が実力だと考えるべきです。ただ、これらは拡大をするときにものをいいます。もちろん実寸、あるいはそれ以下で使用している分には不足はないでしょうし、全体の解像度が上がればさほど気になる問題ではないかもしれません。

※マイクロメートルはミクロンという単位でも表記されることがありますが、これは昔の単位でインチやヤードと同じ扱いです。現在は国際基準でメートル法に則っているので、マイクロメートルが正しいのです。単位の記号は「µm」でどちらも同じ。1マイクロメートルは1メートルの100万分の1。1mmの1000分の1に当たります。ちなみに人間の細い髪の毛の太さが約50µmと言われていますので、その約8分の1の太さが6マイクロメートルに当たります。

H4DII200MSの4(マルチ)ショットとは

ワンショット同様のベイヤー配列のフィルターを搭載して5000万画素のデータを取得しますが、1枚の画像を得るためにちょうど1ピクセル、約6マイクロメートルずつセンサーを縦横に移動して5000万画素のデータを4回撮影します。こうすることで、各ピクセルにRGB全ての情報が取り込まれ、グリーンチャンネルにおいては2倍の情報を取得することになります。これらを補間補正するのではなく、直接合成して絵を作り出すのでジャギや偽色が全くない、輝度情報補も非常に精細な「真性」のデータを取得する技術です。

この動画のようにセンサーを正位置、横、下、また戻って横と移動しながら撮影します。そのため全てのピクセルにRGB全ての情報が蓄積されます。(現実には通常の4倍のデータ量を取得しているのです。)このデータは200パーセントは全く問題なく拡大可能で、ものによっては400パーセントでも問題ないデータを出力します。

複数回の撮影を実行するため動体は撮影できませんし、手持ち撮影も絶対に無理です。しかし、4ショットで記録された画像の精細さは一度味わうとやみつきになってしまします。

比較画像

ウェブ上ではご覧に入れられないほど大きな画像ですので、縮小した全体像と部分画像(100%表示)をご覧ください。
1ショットと4ショットの仕上がりはどちらも5000万画素です。

kitano_NY2_1.jpg

kitano_NY2_4.jpg

このサイズに縮小するとこの二枚の写真の差は全くわかりません。

1_1.jpgグリーンの枠部分をフルサイズで表示したときの一部を切り出して表示しています。左が1ショットで右がショットの画像です。窓の窓枠、懸垂幕の文字のエッジやコントラストが相当異なるのが分かるでしょう。




1_2.jpg煉瓦や窓の格子に顕著な差が見られます。ワンショットでは煉瓦の形が見えていません。







1_3.jpgグリーンのペンキを塗ったところのコントラスト、白い配管のラインは1pixelです。








1_4.jpgシャドウ部の描写、屋上装飾彫刻のトーンやエッジなどに違いがよく出ています。